Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “はてさて、なんにしよ?”
 




 さて、昔から“夏休み”といえば何を思いつくものか。昔と言えば、節気のお休み、お盆の薮入りでしたが、今も暦は順守され。問屋さんが休むから、取引先が休みだからと、工場の製造ラインは停止し、大人たちも数日間の長期休暇…にはなるものの。帰省ラッシュに家族サービス、そりゃあもう大わらわで大変な騒ぎ。暑くても職場にいた方が楽かもななんて、ついついポロリと思わんでもなかったり…。それとは逆に、お子様たちは。ここぞとばかり長い長いお休みを満喫する。日頃は声を嗄らしたって起きないものが、七月中は用もないのに早くから起きてゴソゴソ。言われずとも素早く身支度してバタバタ。お父さんは全然手がかからないのよ、だから…あなたはまだ寝てなさいと、思うお母さんの胸中なぞ知ったことかと。自分でパンなぞ焼いて食べて、テーブルの上を取っ散らかしたまんまでお外へ飛び出してく…に、500点。倍になってドン、1000点ってトコでしょか。
(苦笑) それもやがては、夜更かしが増えることからの“ところてん現象”で、どんどんと朝寝坊さんになってゆき。しまった寝坊した、一刻も早く出掛けなくっちゃと、時を惜しんで遊びに遊び。


   ――― あっと言う間にやって来る“8月31日”だったりしませんか?


   「大丈夫、ウチのガッコは2学期からは旧の暦で始まることになったから。」
   「嘘をつけ、嘘を。」






            ◇



 冗談はさておいて。八月からこっち、高校生のお兄さんたちのアメフト合宿に“押しかけコーチ”として居候している金髪小悪魔坊やもまた、義務教育中の小学生であるからには、夏休みの宿題だってあったりするのだろうにね。昼日中はお兄さんたちと一緒に、熱い砂浜を駆け回りの、芝草の上に陽炎が立つグラウンドをやっぱり駆け回りの。小さいと表面積も少ないから、若しくは低い位置の頭に陽が届くまで時間が掛かるから、それで暑さは堪えんものなのか。すこぶるつきのお元気さんで先頭に立って張り切っており。
「いくら背が低いったって、太陽からの絶対的な距離を考えたら違いなんて無いよなもんだろが。届くまでに冷めるなんてのはあり得ない理屈だぞ。」
 あははvv そですよねぇ。それに、
「地面からの輻射熱には背が低い方が間違いなく近いんだから、実は子供の方が暑い目に遭ってんのよね。」
 らしいです。よって、ベビーカートに座らせての赤ちゃんのお散歩は、そこまで考えないとイカンそうです。いや、だからサ。坊やがお元気りんりんなのは、重々判っておりますってば。そうじゃなくって、あのねだな。
「そういや、今年は手伝わんで良いのか? 宿題。」
 お父さんみたいな訊き方をした総長さんへ、その切れ長の目許を少々眇めて見せると、
「役に立ったことがあってこそ言える台詞だぞ、それ。」
 ………確かにまあ、昨年の夏休みは、ねぇ?
(苦笑) 高校生のお兄様方という年上の知己がどんと増えたもんだから、これはもしかして頼りアテにしてもいいかしらと。やろうと思や、能力的には自分でこなせはしたものの、反復学習が目的だろう、似たような問題ばっかが山ほど載ってた算数のドリルをお任せしたところが、
「去年つったら小一だぞ、小一。そんなレベルのドリルに、何人掛かりで、しかも何でああも見事に間違いだらけだったのかなぁ?」
「うう"…。」
 そんな訳で、今年は最初っから“猫の手”としてでもアテにはしておりませんよと。白い小鼻をツンとそびやかしての、それはそれで年長さんには少々傷つくお言いよう。
「だって、自業自得じゃんかよ。」
 事実を言ったまでなのに非難されるなんてお門違いだと。偉そうなお言いような割に、いつものように葉柱のお兄さんのお膝に馬乗りになっており。一丁前に腕を胸高に組んで、柔らかそうな頬をぷっくりと膨らませた坊やだったものが、
「…あ、何だったら、手伝ってやってもいいぞ?」
 ポンと、手のひらを拳で叩いて。英訳は今年もペーパーバックなんじゃねぇのか? 去年のは確か『トムソーヤ』だったけど、今年は何なんだ? 理数系の問題集は担任によって違うのか? 皆して同じなんだったら、誰かのを1冊ずつ貸しといてくれたら、皆が練習中にちゃっちゃとカタしといてやるからよ。それを後で回して写しゃいいんだし。あ、でも、古文はパスな。あれはどうも苦手でよ。あんな古語、専門的に研究しねぇもんには要らないだろうによ。何できっちり文法まで勉強すんだよな? そりゃあなめらかに語ってから、もっともらしくも細い眉を金色の前髪の下で顰めて見せる坊やへと、
「だ・か・ら。そうじゃなくって、お前の宿題の話をしとるんだろうがよ。………お前らも、自分の課題を取りに行こうとすんじゃねぇっ!」
 この野郎どもがよと、色んな方面へ苦労が耐えない総長さんだったりもするのだが、
「だから。俺の方のは心配要らないって。」
 坊やの方はしゃあしゃあとしたもので。量ばかりをこなさにゃならない かったるさでは、漢字練習帳もドリルと以下同文だったけど。これと絵日記はまあ、少しでも大人みたいな字が書けるようになりたかったからね。そのお稽古だと思うことにして何とか我慢して、コツコツと手をつけてる。衛星による座標システムGPSを使いこなせる身に“ボクの町を探検してご町内地図を作ろう”なんていう課題は…どのくらい手を抜けば良いもんかを考えるよな順番だったし。課題図書を読んでの感想文は、一晩どころか小一時間もありゃあ斜め読みしてやっつけられる。
「自由研究は七月中に“入道雲の観察”ってことで、上昇気流の何たるかを出来るだけ子供っぽく噛み砕いて書くことで、原稿用紙の枚数をガンガン稼いで仕上げたし。」
「…ほほぉ。」
 あ、これってば、セナのチビと合同研究なんだぜ? あいつ、あれで写真撮るのが上手いんだ…と、にっぱり笑った小悪魔坊やであり。小さなお手々のそりゃあ綺麗な細い指、大人みたいに小指の側から1本ずつ立てて数えて見せる様は、正に余裕のカウントダウン。お昼ご飯の後の食休みにと、風通しの良いリビングにて。いかにも学生さんらしい話題を取り沙汰していた彼らだったものの、一番小さな坊やが一番しっかりしている辺り…。

 「冗談抜きに、英文訳の宿題だけでも手伝おうか? ルイも皆も時間ないだろよ。」
 「………すまんな。」

 おいおい。
(笑) PCの翻訳ソフトを使うにしても、英文を入力しなければならない。スキャンした画像の中の文章を“文章”として認識出来るソフトというのも、順次開発されてはいるらしいものの、今のところはまだまだ、そんな優れもんが標準装備されてはおらずで。最も手間のかかる代物だけ、すいませんが今年もよろしくと総長さんが折れたところで、他の面子たちも“ほぉ〜〜〜っ”と一息ついて。………それでね?
「ただなぁ、図画工作の宿題が。」
 やっとのこと。ちょっと困っているものが無くもないと、坊やが小首を傾げて唸って見せる。絵を描いて来なさいというものならば自信もあったんだけども、今年は何と“工作”だとかで。まさかに本職の武蔵さんに頼るのも何だし、
「紙細工や縫い物でも良いなら、まだ何とかなったんだけどもサ。」
 そういや、いつぞやはフェルトのマスコット、手際よく作ってましたものね。粘土細工による造形も得意な妖一くんだが、この夏の二年生たちへの課題は、

  「カマボコ板で何か作りなさいだって。」

 今時はサ、板のついてないカマボコだってあるんだぜ? アナログなのは許せるが、アナクロなリクは勘弁してほしいぜ、まったく…と。一丁前に肩をすくめた坊やであり、
「…そうか。それでここんトコ、毎日のどっかで何か一品はカマボコがらみのメニューだったんだな。」
 こんだけの人数ですものねぇ。板わさにと半分ずつ食べたって、30人もいりゃあ1食で15枚。そりゃあ一気に溜まるでしょうよ。
(笑)
「名字を彫刻刀で掘って“表札”ってのはダメなんだからって、姉崎センセに先に言われちったしよ。」
 残念そうにチッと舌打ちする坊やには悪いが、さすがはセンセも慣れたもんだよなぁと。葉柱のお兄さんにしてみれば感心することしきりであり。そういう思いが胸に去来したことが…どういう訳だか筒抜けになったらしく、
「何だよ。」
「何でもねってばよ。」
 上目遣いになった坊やと睨めっこになって、総長さんがたじろがなくなったのは。一見、ささやかなことながらも…実は大きな進歩であって。そしてそして、そうなると、
「う………。////////
 内心がどうであれ
(笑)、間近になった精悍なお顔に悠然とした落ち着きを見ては、あのね? 逆に坊やの方が、何でだか落ち着けない。三白眼の目許は、表情が乗らないままだと結構怖い筈が…いや、その点へは前から“こわい”と思ったことは無いのだけれど。きりりと冴えて男臭くて、
“くそ〜〜〜。////////
 カッコいいじゃんか…なんて思っちゃってるのって、世間様で言うところの“終わってる”ってことじゃないのかな。それを思うとちょっぴり口惜しい。でもでも、カッコいいんだからしょうがないじゃんかと。おマセな感慨を誤魔化すべく、幅も分厚く、隆と堅い、鍛え抜かれた胸板へ、頬を擦り寄せるよにしてお顔を伏せる。汗をよく吸いよく乾く練習着は、薄手の合成繊維製だからね? 型崩れしないほどコシはしっかりしてるのに、凄っごく薄くて、くっつくと地肌の温みがまんま来るから。
“あ、やば…。///////
 しまった、もっとドキドキして来たぞ。この態勢って、お胸から腹まで密着してんだもんな。どしよ・どしよ////////と、赤くなる頬の対処に困っていれば。
「鳥の巣箱、なんかはどうだ?」
「…え?」
 髪をまさぐる大きな手のひらが、あんまり温かくって…一瞬ほど上の空になってた。
「魚臭くて小鳥なんぞ寄っては来ねぇかな?」
「あ、うん…どうだろ。」
 ああそっか、宿題の話ねと。主語も何もすっ飛ばした言いようへ、でもでも素早く理解が追いついた坊や。頬をつけてる総長さんの胸板が、彼自身の深い声の響きを伝えて震えて気持ち良いからさ、
“もっと何か喋れよな。”
 そんな勝手をふと思う。とっとと大人になりたくて、そういえば最近は、お母さんにも抱っこされてはいなくって。その代わり、ルイにはしょっちゅう飛びついてるよなと、居心地の良い懐ろにうっとりとしもって瞼を伏せる。桜庭や阿含にもよく抱えられてるのにな。そっちはあのね? 単に勝手が良いからなだけ。背が高い分、サッサカ速く歩いてくれるからって、それで“利用”してるだけ。こんな風に、気持ちが良いからって、こっちから擦り寄ろうとか凭れようとかまでは思わないもんな。

  「………妖一?」
  「……………。」

 ホントはまだ、眠ってまではいないけど。起こさないようにって、ネンネしなって、髪を頭を、大きな手でもっともっと撫でてくれるから。話の途中から立ち上がって移動した中庭の木陰、少しは涼しいのを良いことに、大好きなお兄さんにぴっとりとくっついたまま、小悪魔坊や、此処は狸寝入りを決め込んだ。肩も二の腕も頼もしいほど大きくて。でもね? あのね? 守られてる時は際限なく優しいから。ああ、本当に眠たくなってくるじゃんかよ。工作の宿題のテーマくらいは、決めたかった、のに、な………。zzzzzzzz


  「あの二人、こうまで衆人環視の中だっていう自覚はあるんでしょうかね?」
  「さぁねぇ。」


 間近い海からの潮風や波の音。間断なく届くそんな気配が、日頃以上に開放感を醸しているとはいえ。最初に居た…談話室を兼ねた広いリビングの、そこの大窓から直接出て来られる、テラスの先の芝草の上だってことを、果たしてちゃんと覚えてる彼らなのか、どうなのか。話の途中までは割と近間にいた面々も、何となく…雰囲気に当てられてしまい。こそこそっと撤退して来ての、今は窓辺に鈴なり状態。一年坊たちは“おらおら、部屋で休んで来い”とばかりに追い払えるもんの、
“二年には今更なことだしねぇvv
 その点も含めて…ロニに訊かれたメグさんは“しょうがない奴らだよねぇvv”と笑ってて。それは坊やにもかすかに聞こえていたらしいけれど。眸を閉じて視覚を放棄すれば、途端にゲインが上がって鮮明になる聴覚と触覚なんだから仕方がない。堅くて窮屈な筈の総長さんのお膝や懐ろが、坊やにとってはどんなお布団よりも寝付きの良い場所になりつつあるようで。いつの間にやら“くうくう…”と寝入ってしまった坊やが見た夢は………。


  ――― 頑張って作った小鳥用の巣箱だったのに、
       どうしてだか…カメレオンズのマスコット、
       カメレオンのベロリンが住みついちゃって、
       これじゃあ姉崎センセが怖がって採点してくれないかもと、
       どうしたもんかと困った…という。


  「リアルなんだか、シュールなんだか。」
  「巣箱なのにカメレオンか。家庭的なんだか気まぐれなんだかってことかな?」
  「………いや、夢判断なんかしなくてもいいって。」


    皆さんも夏休みの宿題はどうかお早めにお手当てをvv






  〜Fine〜  05.8.25.


  *結局、巣箱にしたのかな?
   そんでもって、セナくんも同じもの作ってたら笑います。

   「…それって。」
   「うわぁ、お揃いだねぇ。//////
   「自分で思いついたんか?」
   「ん〜ん、進さんが。」
   「………ふ〜ん。」

   そっか、ルイと進って感性が似てるのか…なんて、
   そういう ややこしい苛めは辞めたげて。
(笑)

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